「自摺」木版画創出 Hiroshi Yoshida or 吉田 博(3)

吉田が渡邊庄三郎の要請に応えて、新版画
を始めたのは、大正九年、本格的には、十年
から十一年にかけて、名高い「帆船」を含む7
点の版画を出したことからとのことです。

渡邊を以前、起業家と評したことがあるのです
が、相手にもされなかった「洋画界から誰かを
起用したい」という思いを通すところなどその面
目躍如たるところでしょうか。

吉田は、関東大震災で版木を失った後、なんと
下絵だけでなく、彫りや摺りも自ら習得し、「職人
顔負けのレベルまで到達した」あと、自ら木版画
の創作を開始しました。

実際には、専用の彫り師を雇い、摺りは名人に依
頼したようですが、全工程を厳しく指導、注文した
とのことです。

それで、やっとわかりました、彼の作品に必ず記
されていた「自摺」とは何を意味していたのか。

安永氏は、吉田の木版画の特質として、「大判」
「30~70版におよぶ多重版」「同版木による色替
摺り」を挙げていますが、このような技術的な特
質の前に、やはり原画自身が持つ魅力が一番の
特質のように思うのです。

「線スケッチ」に、強引に結びつけるようですが、
昨年「よみがえる浮世絵展」で見た、原画の線描
の厳しさが眼に浮かびます。

吉田博

私には、東洋の線描と西洋の感性が融合している
ところに、一番魅力を感じます。

東の感性と西の感性を不自然ではなく融合すること
に成功した稀有な例と思います。

それを成し遂げたのは、カスティリオーネ(郎世寧)
と、この吉田博だけだと思うのですが、言いすぎで
しょうか?

(吉田の作品のフリー画像はほとんどないので、
 ご紹介できません。以下のweb siteでご覧いただ
 ければと思います。
 「hanga gallery」)



<本日の絵>
本日の絵は休みます。

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寛容なるかなアメリカ  Hiroshi Yoshida or 吉田 博(2)

安永幸一市著、「山と水の画家 吉田博」は、
期待を裏切りませんでした。

吉田の生涯がやっとわかりました。

特に、新版画の作成に入る前の、生い立ちと、
数多くの水彩画、油彩画が紹介されているの
がありがたい。
吉田博、水彩 
知りたいことは、一体なぜ欧米で、現在も人
気が高いのかです。

実際、終戦後厚木飛行場に降り立った、マッカー
サーが第一に会いたかった人物が吉田であったと
いいますし、執務机の背後に2枚の吉田の版画が、
飾られている、執務中の生前のダイアナ妃の写真
がこの本に紹介されています。

面白いのは、というよりも驚いたのは、ほとんど
あてもなく、米国に渡り、しかも、模写をするために
おしかけたデトロイト美術館で、偶然も作用して、
館長に会うことができ、結局館長が、彼の作品に
ほれこんで、展覧会を開くことになり、大成功を
おさめることになることです。

館長の作品に対する評価はこうです。

「それらは、情趣と大胆なタッチをもち、同時に詩的な
魅力と色彩を持っていた。略。 ヨーロッパの画家が
持つ、雄大さと深さを持ち、ヨーロッパの巨匠にも
比肩し得る質の高さを持つ」

そのとおりだと思います。

この展覧会以降、アメリカで大成功していくのですが、
それにしても、現代の日本でこんなことがありえるで
しょうか。

おそらく、どの権威ある美術館の館長も、どこの馬の
骨かわからない、はるか遠い異国の無名の画家の作
品を自分の眼で評価して、しかも自分の美術館で、
展覧会を開くことを勧めるなど、到底考えられません。

この点をもってしても、「恐るべき国なるかな、米国」と
思いませんか。


<本日の絵>
F10 ワットマン 昭和記念公園のシーソー
昭和記念公園ブランコ
東京野外スケッチの会の色塗りがようやく終わりました。
スキャニングが悪いせいか、赤、ピンクの発色がもうひ
とつです。

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魅せられています。Hiroshi Yoshida or 吉田 博

昨年秋以来魅せられている画家がいます。
その名は、吉田博。

欧米では、Hiroshi Yoshida。(当たり前です(笑))

なぜ、英語表記か、それについては、後ほど
紹介します。

話を先に進めます。
昨年秋に、江戸博物館で行われた、「よみが
える浮世絵うるわしき大正新版画」展で、は
じめて吉田博の存在を知りました。
どうやら、日本では知る人ぞ知るという存在
のようです。

伊藤深水、川瀬巴水が、新版画の代表作家とす
れば、吉田博の絵からは、まったく違う印象を
受けます。

ひと眼見たときに、ビビッときました。
他の日本作家と何かが違うのです。
あえて言えば、次の理由が挙げられます。

抒情性があるにもかかわらず、べったりし
ていない。
他の作家には、日本特有のべったり感(演歌
といってもよい?)があるのに対して、吉田
には感じられない。どこか知的な冷たさも
あわせもつところがあります。

この点が、彼の作品が、海外で圧倒的に受け
入れられている理由ではないかと思います。

というわけで、何とか、吉田博のことを知り
たいと思い、折に触れて調べていましたが、
断片的なことしか集まりません。

ところが、二週間前、せんだいメディアテーク
内の仙台中央図書館で、新規購入の本を見てい
たところ、なんと「山と水の画家 吉田博」と
いうそのものずばりの本を見つけてしまったの
です。
吉田博

なんという偶然。通常の書店では、見たことが
ありませんでした。さすがに、せんだいメディ
アテーク。
よく購入してくれました。

飛びつくように手にとって、貸出カウンターに
向かいました。
(続く)



<本日の絵>
マイブック 松島湾
松島湾
瑞巌寺石窟のスケッチの日に、昼飯を遊覧船乗り場横で
とったときに、描きました。
本当は、時間をとって、もっと絵になるところで描きたかっ
たのですが、石窟スケッチにもどりたかったので、安直に、
場所を選んでしまいました。


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松島・瑞巌寺スケッチ

勤め先の創立記念日で休日の火曜日に、松島
瑞巌寺をめざしました。
昨年の秋にマイブックスケッチした、瑞巌寺の
杉並木と石窟
の本格スケッチをするためです。

けれども、あらためて現場に行くと、最近は、
人物を入れたい気持ちがつよいせいか、迷い
に迷います。

例えば、
瑞巌寺

洞窟から、門前と、その前に集う観光客を望む
とか、

瑞巌寺2

門前の売店で買い物をする、観光客と、江戸時
代風の茶店を望むとか。

どれも魅力です。

けれど、結局初心通り、杉並木と石窟を描く
ことに決めました。
瑞巌寺石窟

途中経過を示します。(あとは、人物を描き
入れるだけです)
途中経過を示します。
瑞巌寺スケッチ

イメージ通りにいっています。洞窟をどれだけ
際立たせることができるでしょうか。


<本日の絵>
本日の絵は休みます。

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オルセー美術館展2010「ポスト印象派」とミッドタウンスケッチ(3)

先に余談を書きます。

前回紹介した、ゴッホのアルルの夜景「星降る夜」
について、NHKの日曜美術館では、印象派の画家
たちは、昼間を描いたのに、ゴッホは新たに夜景の
美を見出したとの解説がありました。

しかし、私には、この絵からはどうしても広重や、新
版画の作家たち(川瀬巴水や吉田博など)が描いた
夜景の作品を思い起こさせます。
   広重1   広重2
<出典:2点ともwikimedia commons>

むしろ、日本の作家たちが夜景、特に夜の都市美を
発見し、それをゴッホがあらためて気付いたと考え
たいのですが。

余談はここまでにして、後半に行きます。
会場のタイトルは、「ポン=タヴェン派」「ナビ派」
「内面への眼差し」「アンリルソー」「装飾の勝利」
と続きます。
ベルナール、ドニ、ボナール、ヴァロットン、セリュ
ジェ、シャバンヌ、ルドン、ヴュイヤール、といった
作家たちですが、アンリルソーを除けば、昔全集で、
眺めたり、展覧会の一部で実物を見たぐらいで、意
識の中では大きくない人たちばかりです。

今回は驚きました、会場に足を踏み入れた途端、こ
れは「新版画」の会場か、「日本画」の会場か、それ
ほど、日本を感じたのです。

解説を読んで、ナビ派などは、日本の絵の装飾性に
習ったというのですから、私が知らなかっただけです。

が、それにしても、これだけの数があつまると、大変
強い印象を与えます。

中でも、ヴァロットンの「ボールで遊ぶ子供のいる公園」。

ヴァロットン

緑と影の濃さ、この絵から受ける感じは、川瀬巴水の
夏の金沢の新版画を思い起こします。
否むしろ版画そのものに見えます。

そして、最後に、ボナールの「ル・カネの見晴らし」。

ボナール

色の印象が強すぎるので、写真ではわかりませんが、
はるかかなたの町から手前の谷まで細かく描きこんでいる
様子は、線スケッチの眼そのものです。
おそらく、白黒の線描でも十分見栄えのする絵だと思いま
す。



<本日の絵>
マイブック
東京ミッドタウン3 Sinsuke

プジョーの新車発表の会場で、マリンバ奏者の「Sinsuke」
が無料演奏していました。 音楽スケッチのチャンスとい
うことで試みましたが、あまりの手の早さにマリンバとも
どもぐちゃぐちゃです。



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オルセー美術館展2010「ポスト印象派」とミッドタウンスケッチ(2)

今回の展覧会では、素描がなかったことは、残念で
した。
素描は、一番その画家の表現力を生で感じることが、
できます。
最近の絵画展では、真っ先に素描を見ることにして
います。

それでは、ない場合はどうするか。頭の中で、油彩
画から「色」「色彩」を取り払ってみました。すると、
形の輪郭線が浮かび上がります。

線描の勢いは、見ることはできませんが、上に述べた
方法で眺めると、これまで色彩のみで眺めてきた、
「印象派」や今回の「ポスト印象派」の画家たちの絵
が、異なって見えてきました。

そして、いったん輪郭線から、もとの色彩に戻すと、
変な言い方ですが、モネとスーラ、シニャックを除
いて、まるで、浮世絵か、大正、昭和の「新版画」
のようにに見えます。(ただし光を描く画家たちには、
どうもこの方法は通用しないようです)

以下に、展示順に例を示します。

絵画の構成を変えた、セザンヌに対しては、失礼か
もしれませんが、彼の静物を、線スケッチに変える
と魅力的な作品になると思いませんか。
セザンヌ、静物
<出典:wikipedia commons>

次に、ロートレック。ドガとならんで、もはや、素描
に近く、線スケッチのコンセプト(現場描き、臨床)
そのものです。
ロートレック1 ロートレック2 ロートレック3
<出典:3点ともwikipedia commons>

ゴッホとゴーギャン
二人は、もういうまでもないでしょう。日本の影響を
受けているのですから。(新版画にそのままなります)

ゴッホ1 ゴッホ2

ゴーギャン1 ゴーギャン2 ゴーギャン3
<出典:5点ともwikipedia commons>

以前、あるときからゴッホよりも、ゴーギャンの絵が
魅力的に感じるようになりました。
その時は、印刷と違って、実物の絵の方が色の質感が
際立っていたためと思っていたのですが、実は浮世絵
や新版画と同じ魅力を感じていたのではなかったか。

ゴーガンの絵の味わいは、格別です。

以下、次に続きます。


<本日の絵>
マイブック 東京ミッドタウン
東京ミッドタウン2

本当なら、ミッドタウンを闊歩するセレブ風のマダムであれば、
ミッドタウンらしさがでたのでしょうが、あいにく、体格のい
い年齢、70歳近くの男性が眼の前にすわりました。

けれども、ときどき身体を左右に揺らしながら、本を読むその
一瞬を描いてみたいと思い、左に傾いたところを描きました。

実は、2年前に同じ場所を本格スケッチしましたが、そのときは、
人物は全員不動のままで、動きがなく、彫刻状態でした。
少しは、人物描写に動きを取り入れることができるようになり
つつある気がします。

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オルセー美術館展2010「ポスト印象派」とミッドタウンスケッチ(1)

「モネ、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャン、ルソー、傑作絵画
115点、空前絶後」というのが、この展覧会の広告のうたい文句。

おまけに、「これらの絵画がまとめてフランスを離れることは、
二度とない」(サルコジ大統領)とあおられたら、行かないわけ
にはいきません。

ということで、国立新美術館、「オルセー美術館展2010」に行
ってきました。

オルセー美術館展

最近の展覧会の記事では、枕詞のように書いているのですが、
どの展覧会も「線スケッチ」の実作の立場から作品を見てみ
ようというのが、このブログでの見方です。

それは大変偏った見方になりますが、これまで受けた美術教
育では、教えられなかったことが次々発見できるのが面白く、
続けています。

そういう意味では、残念ながら今回の展覧会では、新たな発見
はありませんでした。(傑作を十分味わったことは別として)

感想は、次回に続きます。



<本日の絵>
マイブック 東京ミッドタウン
東京ミッドタウン1

ミッドタウン隣接の区立檜町公園の日本庭園横の藤棚で、昼飯をとっていると、
おしゃまな女の子二人連れが現れました。
大人びた会話を聞きながら、マイブックスケッチを楽しみました。

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音楽スケッチはなぜ難しい?( ジャズ・プロムナード・イン・せんだい)

1週間も前のことを記事にするのは、気がひけますが、
音楽スケッチのことについてあえて書きます。

ジャズプロムナード・イン・せんだいは、昨年、偶然
出会って、マイブックスケッチを試みたのですが、
結局失敗しました。
 ジャズプロムナードインせんだい2 ジャズプロムナードインせんだい

最近は、そもそも、楽器を奏でる人物のスケッチは、
難しいのではないかと思い始めました。

通常、機能と形との関連が理解しやすい、近代製品や
建物は、形がひずめばそれは、それで味が出るように
思います。

ところが、楽器については、演奏者も含めて、形が
違うと、描いている本人が、どうにも「違う」という
「味」よりも「違和感」を先に感じるのです。
絵を見る人も、おそらく同じ感情がおこると思います。

理由を考えてみました。

一つは楽器の形です。

まず、なぜその形でなければならないかわからない。
ほとんどの楽器は、ピアノやギターのように必ず曲線
からなっているか、クラリネットやサキソフォンのように
複雑なボタンと配管が管にまとわりついていて、まるで、
古代生物のようです。

そのような、わけもわからない形なのに、少しでも外れる
と、なぜかすぐにおかしいと感じます。

次に、演奏者の動きです。動きがあるから描きにくいと
いうことも、理由になりますが、それは動く人全般に言
えることです。

問題は、それぞれの楽器の演奏には、型があることにあり
ます。

丁度へたな役者が、バイオリンやピアノを引く演技をすると、
すぐにおかしいと感じるのは、バイオリン本体を支える腕や、
弓を引く肘の方向、ピアノでは、手の甲や指の鍵盤に対する
方向がプロと全く違うからです。

役者絵(絵を描くものとしては、魅力的なスケッチターゲッ
トですが)も簡単に手が出せないのは、同じような理由で、
姿かたち、しぐさが少し異なっても、絵を見る人が違和感を
感じるからではないでしょうか。

以下、プロムナードせんだいでの悪戦苦闘を、<本日の絵>
ごらんください。


<本日の絵>
マイブック
ジャズプロムナードイン仙台
ピアノの女性の手とサキソフォンの奏者の手は気をつけました。
(小さくてわかりずらいですが)

ジャズプロムナードイン仙台2
個別に演奏者を描いてみましたが、いまいちです。どこかが、
バランスを崩しているのでしょう。
今後も、演奏の姿を描き続けるしかないと思っています。

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安藤家再訪 角館スケッチ(5)

角館を少し引き延ばしすぎたかもしれません。
記事はこれが最終回です。

さて、ここまでマイブックを中心に角館スケッチ
をしてきましたが、せっかく持ってきた、F4と
F10の水彩紙、やはり最後は本格スケッチでしょ
う。

目指すは、安藤家。

安藤家前面

玄関入口左のレンガ建ての建物、道路の左から
右まで眺めまわして、結局安藤家の真向かいに
ある、お医者のおうちの玄関の門柱に背をもたれ
つつ座り込んで描くことにしました。
<本日の絵>をご覧ください)

気がつくと閉店時間を過ぎています。店員さんに
御願いして入れてもらい、もう一度座敷へ。マイブ
ックで描き残した部分を完成し、最後に岩魚のしょ
っつる入り「しろだし」を購入して、角館を後にしまし
た。


<本日の絵>
F4 ワットマン
角館、安藤家前面図

レンガ建ての建物を見上げて描いたのですが、見る目を優先して
描いたためか、まったく遠近法から外れてしまいました。
(屋根の軒下の線が今みると、まったく遠近法になっていません。)

最近にない建物描き失敗です。

が、「合理の眼」より「感性の眼」の方が、大事ということもあります。
合理の眼では直したいのですが、このまま色塗りをすれば、また違う
魅力が出るかも?。




やはり

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武家屋敷ぶらり 角館スケッチ(4)

武家屋敷街の緑を堪能しているうちに、やはりここは
描かねばという気持ちが湧き出てきました。

あれほど、絵ハガキになるのを避けていたのに、節操を
曲げて典型的な景色を描くことにしました。

ま、俳句で言えば「挨拶句」というわけです。
(<本日の絵>をごらんください)

ご参考までに、写真も示します。
角館武家屋敷4



<本日の絵>
マイブック
角館、武家屋敷通り

写真では人力車は2台ですが、描き始めると、あっというまに
お客が来ていなくなり、もう一台も、出かけそうだったので、
あわてて人力車から描きました。その後は、ゆったりと、緑と
黒塀と、木々の影を描くのみです。(もちろん、観光客も)

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